午前 10 時半 ・ 開店前の電話 「卵は入っていますか」に、すぐ答えたい。 お孫さんに卵のアレルギーがある、というお客さまからの電話でした。ハンバーグのつなぎに卵は使っていない。でも、ソースは。付け合わせのポテトサラダのマヨネーズは。 毎日つくっている料理なのに、材料を一つずつ思い出していくと、自信がなくなる。「たぶん大丈夫です」とは、言えない。言ってはいけない。だから「確かめて、折り返します」と答えるしかありませんでした。 このごろは、外国のお客さまから「豚肉は入っていますか」と聞かれることも増えました。ちゃんと答えたいのに、手元の資料と言葉が足りない。
午後 3 時 ・ ランチのあとの休憩 あの口コミに、どう返せばいい。 お昼のピークに、ホールのアルバイトが一人休んだ日でした。あかりさんは、二人分の仕事を一人で回してくれた。それでも、待たせてしまったお客さまはいました。 届いた口コミは、星ひとつ。「店員の態度が悪かった」。読んだあかりさんが、黙ってスマホを伏せた。 守りたいのは、あかりさんです。でも、待たせてしまったお客さまにも、きちんと謝りたい。言い訳に聞こえない言葉を探しているうちに、返信の欄は白いまま、夜になります。
夕方 5 時 ・ 請求書の束 値上げのお知らせが、書けない。 お米も、油も、電気代も上がった。去年と同じ値段では、もう続けられない。頭では分かっています。 でも、毎週火曜に日替わりを食べに来てくれる人がいる。父の代から通ってくれている人もいる。「高くなったね」と言われる顔を思い浮かべると、ペンが止まる。 貼り紙は、もう 3 回書きかけて、やめました。
夜 10 時 ・ 閉店後の店内 人が来ない。来ても、教える時間がない。 求人を出して、3 か月。電話は、まだ鳴りません。 もし来てくれても、ゆっくり教える時間がない。ラジさんが来たばかりのころも、忙しさにまかせて「見て覚えて」と言ってしまった。あのとき、もっとちゃんと教えていれば、と今でも思う。 店の雰囲気も、まかないのおいしさも、ここで働くよさは、ちゃんとある。それを伝える言葉が、求人の紙の上にはまだありません。