午前 9 時 ・ フライス盤の前で
「音で分かる」は、どう書けばいい。
松本さんの言うことは、正しい。キーンと高い音がしたら、刃がびびっている。40 年、毎日その音を聞いてきた人には、考えるより先に手が止まる。
でも、来たばかりのグエンさんには、その「キーン」がどの音なのか、まだ分からない。分からないまま、うなずくしかない。うなずいた顔を見て、松本さんは「分かった」と思う。
大塚さんは、二人のあいだに立っている。作業標準書を作り直さなければ、とは何年も前から思ってきた。けれど、いざ書こうとすると、ペンが止まる。松本さんの頭の中にある段取りを、紙の上の手順にするのは、思っているよりずっと難しい。
それに、書く時間がない。昼は機械の前、夕方は事務所。気づけば、また半年がたっている。







